病とともに (2011年8月6日)
敬天愛人箚記敬天愛人にもどる
2年前の夏、体重が激減しました。72kgあった体重が58kgになりました。すこしのことで疲れやすくなり、体力が落ちていました。どこか体を壊したかもしれないと思いながら人間ドックに入ったのは秋でした。血液検査で異常が見つかりました。その日夕方、私は慢性骨髄性白血病だと診断されました。病気の説明は翌日、精密検査の後、行うとのことでした。その晩、私は白血病になったこと、詳細は明日でないと分からないと、妻に伝えました。
そのころ私は事業の売上不振による資金不足に毎月、悩まされていました。長年の建設不況のなか、全国に支店網を広げ売上拡大を続けてきましたが、右上がりの成長がいつまでも続くものではありませんでした。当時、自民党から民主党へと政権交代がありました。政治空白がおこり、政府の予算執行に遅れがでました。そのうえ鳩山総理の「コンクリートから人へ」という言葉がききました。私のメインビジネスがセメント、コンクリート販売でしたから。いろいろな条件が重なっての売上減少が、月を経るごとに悪化しました。そんなころの白血病発症でした。
告知された夜、治療について何も聞かされてなかった私は、これで会社は終わったと思っていました。ワンマンな経営者でしたから、私がいない会社など考えられませんでした。朝が来るまで、会社と家族をどうするのか思案し続けました。人生で初めて自分の死を意識した瞬間でした。翌日、骨髄液を取り検査を行いました。結果、やはり慢性骨髄性白血病でした。そのとき、医者からグリベックといういい薬があることを、初めて知らされました。その薬を生涯、飲み続けねばならないけれど、通常の生活が送れるとのことでした。最悪の状況を覚悟していた私は、先生の話に安堵しながらも、時間の余裕を少し与えてもらえたんだと考えていました。
今、体重は72kgになりました。他の抗がん剤のようなひどい副作用はいまのところありません。以前に比べ疲れやすくなったこと、薬を服用後吐き気がすること、からだ全体にむくみがあること、体重が増えること、からだの思わぬところの筋肉がつること、顔にほてりがあり赤らんできたこと、手と腕に湿疹ができていることなどが副作用としての症状です。しかしどれもあまりひどいものでありません。この薬がなければ死んでいたかもしれないのですから、医学の進歩に感謝です。
私はこれからの人生、白血病とともに薬の副作用と折り合いをつけながら生きていかねばなりません。今は、この病気であったこと、いい薬が開発されていたことに感謝しています。白血病になり、死を意識し、人生を見つめ直すいい機会になりました。あのまま人生が終わっていたかもしれないのに、家族と穏やかに暮らせていることに感謝の気持ちでいっぱいです。大げさでなく、私は病気になったおかげで救われました。以前の生き方では決して気付かなかったことや感じなかったことにたくさん出会いました。おかげで充実した人生を送れそうです。病とともに生きる幸せを感じています。