人生はオーディション (2011年10月31日)

敬天愛人箚記

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私と妻は現在、シニアタレント事務所の研修生です。もうすぐレッスンが終わります。12月からは、事務所と専属契約をし、プロのシニアモデル、タレントとしてデビューします。なんて言っても、仕事はすべてオーディションで決まります。雑誌や広告のスチールモデルも、CM、舞台、ドラマ、映画のほんの端役でも、すべてオーディションで決まります。たったひとつの役を得るため、プロも私のような初心者も、いっしょにオーディションで競います。そう考えると、とても厳しい世界です。

当初、妻はあまり乗り気ではありませんでした。ところが、レッスンが進むにつれ、少しずつ興味を持ち始めたようでした。初めは、照れながらやっていた妻が、前回のレッスンでは、役になりきって演じていました。おまけに、先生に笑顔ときれいな白い歯を褒められ、まんざらでないご様子でした。そんな妻を見ながら、私が照れていました。

先日、俳優の市村正親さんがテレビのインタビューで、「私の人生はオーディションがすべてでした 」と語っていました。彼ほどの俳優でも、舞台、映画、テレビの仕事はすべてオーディションで決められるのです。あの役者を使いたいといった要望で決まる仕事は、ほんの一部だといいます。私たちの先生もある男性俳優さんです。あまり有名な方ではありませんが、過去に出演した作品を聞くと、なんとなく見たかもと思われる方です。彼は私と同年代で、京都の大学在学中に、ひょんなきっかけでテレビドラマに出演し、役者を始めたそうです。以来30年、彼もまた、オーディションの連続で生きてきたのです。ただ一つの役を得るために数えきれないオーディションに参加してきたのです。

私たちの先生と市村さんは、全く同じことを言っていました。「オーディションは落ちるものです。そう思って行くのがオーディションです」そうなんです、合格者はほんのひとにぎりで、多くの者は落ちるのです。それ故、みなさん何度も何度も落ちた経験がいっぱいなんです。合格した経験より落ちたことのほうが多いのです。長く役者を続けるこつは、オーディションに落ちたことを悔やんだり、悩んだりしないことだそうです。多くの人は、何度も落ちれば、気分が落ち込み、自己嫌悪を感じます。そして、挫折し、辞めていくのだと思います。そんな過酷な世界のなかで、しぶとく生き残った人たちだけが、表舞台に立っているのでしょう。

私たちの仕事も真剣勝負の世界であるのは同じでしょう。しかし、役者がたった一つの役を得るために臨むオーディションでの力の入ったパフォーマンスのような、今持てるすべてを一瞬の演技に凝縮するといった、エネルギーのほとばしりを感じさせるような経験は、私たちにはそうそうあることではありません。長年、事業経営者として生きてきた私の唯一の心残りは、社員に仕事で感動を与えることができなかったと同時に、私自身が仕事の中に感動をみつけられなかったことなんです。

私は、これから、事務所から勧められるオーディションにはすべて挑戦しようと思っています。そこではベテランも新人もありません。結果がすべての世界です。ひとつの仕事が終わればそれでその仕事は終わりです。そして次の仕事を得るため、また挑戦するのです。私の本業はコーチングを主としたコンサル業務です。そして副業としてではなく、もうひとつの本業としてシニアタレントに挑戦します。オーディションに臨む緊張感や高揚感が私のモチベーションを上げ、もうひとつの本業におおきな影響を与えてくれるものと、こころから期待しています。人生はオーディションです。