親子経営 愚かな親父と愚かな息子
ビジネスコラム親子経営 愚かな親父と愚かな息子
私の知人がこの間、転職しました。エージェントを通じての転職です。年商300億円、社員数400人の中堅企業の社長への就職です。彼は大学卒業後大手飲料メーカーに入社し、その後数社の財務部長を務めての転身でした。
彼はとても真面目な男です。どこへ行っても仕事は誠心誠意務めあげていました。そんな彼が数社を経て中堅企業の社長に就任したのですから、私は心から彼の転身を喜んでいました。
先日、社長に就任して2カ月が経つ頃、彼から久しぶりの電話がありました。もう一人の知人と彼の社長就任を祝って祝宴を挙げている最中でした。お祝いを云い近況を聞いた私に話す彼の声がいつもの快活で屈託のないものとは程遠いものでした。
聞くところによると彼の会社の経営者はとてもワンマンな経営者であったようであれこれと細かいことまで社長の彼に要求するようでした。契約交渉のときとはまるで違う別人のようだと彼がぼやいていました。
その会社には50になる息子が後継者としているとのことでした。父親からすると息子がとても頼りないので彼にしばらくワンポイントで社長をしてもらいたいということでした。
その電話での話では、その息子というのが予想以上にダメな息子だということでした。あれでは彼が指導、教育などとてもできるレベルではないと嘆いていました。社員の多くはその息子が社長になるなら私たちは辞めると言ってるほどだと言っていました。
また、今日彼からのメールがありました。どうもリーマンショックの頃に大きく業績を落とし、財務内容が悪化していたようだと分かったとのことでした。彼が入社する前に銀行から財務状況の改善策を提示されていたようでした。
銀行の要求に応えられるよう大手財務コンサルタントを入れていたようですが、結局なにも手を付けることができなくコンサルタント契約を終了したと云います。その次の策として財務畑を長年歩いてきた彼に白羽の矢を立てたようでした。
代表取締役会長となった父親が結局彼に何をして欲しいのか、何を望んでいるのかがよく分からないという状況になっています。経営者としての経験が一度もない彼に果たして何を期待しているのか見えてきません。
恐らく、私が推測するところ銀行との煩わしい交渉に財務畑を歩んできた彼を当てたということでしょう。経営者自体の私的な事情により根本的な財務の改善策を取ることができずにいる状態を少しでも引き伸ばすことができるよう彼を社長にしたのではと思います。
社長として彼に経営の根本から改革、改善して欲しいと望んでいるようにはどうしても思えません。彼を使って銀行との交渉をのらりくらりとやり過ごしてくれればいいと甘く考えているのでしょう。
折角、優秀な人材を社長に据えたのに愚かなことだと思います。オーナー経営者に自ら身を切る覚悟があれば私の知人なら立派に財務の改善をやることができるのにと思うと残念でなりません。
自ら経営再建の好機を逸しているとしか思えません。馬鹿な息子だと云いますが、その馬鹿な息子を野放しで役職に就け社員を困らしてきたのは父親の責任です。最も愚かなのは息子ではなく父親である経営者です。
私は私の知人のことを思うと暗澹たる気分です。初めて社長になり経営者として腕を振るえると喜び勇んでいたのだと思うと心から残念でなりません。その企業の行く末など私の関知するところではありませんが、私の知人が要らぬ心労を抱えねばならないことだけが歯がゆい思いです。