コロナ後の経営者と社員の関係の一考察

ビジネスコラム

 今月に入り郷里の旧知の女性が上京してきた。いろいろ事情があり心機一転、東京で新たに頑張るのだという。就職はこんな時期だからこそだろうか、IT関連の会社に早々と決まったようだ。話を聞いてみると、正社員として入社が決まり初日だけ本社に出勤し、その後はずっと自宅勤務だという。いわゆるリモート勤務というものだそうだ。
 
 コロナ禍で緊急事態宣言下だからだろうと思っていたら、そうではなく今後もずっとリモート勤務だという。経理事務なら可能な話だと聞いてみると、営業マンの補助をする仕事だという。何人かの営業マンの営業事務をリモートでやるのだという。アナログなビジネスしか知らない私にすると驚くことばかりだ。
 
 中小企業の経営者であった私からすれば面接で1度会い、その後出社1日で後はずっとリモートで働いてもらうなど考えもしなかったことだ。コロナ禍で大手企業でもそんな話がある。昨年の新入社員が入社式をオンラインで行い、その後ずっといまだにリモート勤務が続いていると何かの記事で読んだ。
 
 コロナ禍もいずれは終息するだろう。コロナワクチンを多くの人が打つことで、国民みんなの安心感を得ることがひとつのきっかけになるにちがいない。言い換えればそこまでいかなければ国民感情が収まることはない。今年4月からワクチン接種を開始したとして希望する国民すべてが打ち終えるには翌年にまで持ち越すだろうと言われている。
 
 したがってコロナウィルス感染への国民の警戒感はまだまだ終わりそうにないということだ。この間、国内の経済環境が大きく変わり企業を取り巻く経営環境が様変わりをすることになる。経営の存続が危ぶまれる企業があるなか、業績が好調な企業もある。いずれの企業もコロナ禍で感染予防のため社員の働き方、業務モデルなどを変更して対応している。
 
 これらの変更が少なくとも2年以上続くことになる。当初は早い終息を期待していた。一日も早く元通りのスタイルで業務を再開したいと思っていた。多くの経営者はいよいよもう決して元通りに戻ることがないと覚悟し始めた。コロナウィルスが終息した後、企業が変化に対応した結果、経営者の経営意識、思考は自ずと変化することになるだろう。
 
 例えば、多くの企業がリモート勤務を実施している。なかにはすべての社員をリモート勤務とした会社がある。それまで都心の事務所を持っていたがこれを機に事務所を閉鎖した会社がある。これらの会社はコロナウィルスが終息したとしても元に戻すことはもうないだろう。一部の社員をリモート勤務とした会社でも終息後もリモート勤務を続けるところもあることだろう。
 
 これらの動きで経営者のマネジメントが変化する。会議は役員会も含め多くをオンラインで行う。中間管理職が不要と分かり組織の階層が少なくなる。現場の第一線で働く社員の動向がタイムリーに掴める。これらの利点ばかりでなく、経営者が直接現場第一線の社員にあれこれ支持することで現場が混乱してしまうなどの不都合が生じることがあるかもしれない。
 
 また、経営者と社員の関係性に変化が起こることが考えられる。多くの社員がリモート勤務となるため直接顔を合わせることが事が少なくなる。これにより社員と情感を通わせる場面が極端に減ってしまう。これは社員の会社への帰属意識、ロイヤリティーの減少に繋がる恐れが十分にある。
 
 経営者もまた社員への親しみや愛情を抱く機会を減らすことになる。このことがドライな人事をしやすくする。さらには厳しいリストラを容易に安易に行えることになる。顔を合わすことなく人事やリストラをメールで簡単に済ますことができるようになる。
 
 リモート勤務の是非を言ってるのではない。その長所と短所、利点と欠点といった両極があるということを経営者、社員双方が理解しているべきだと思っている。どちらか一方にだけ有利なことは長続きすることはない。時間の経過とともにいつのまにかバランスが上手く取られていくだろう。