経営者は浮かぶ瀬を失くしてはならない

ビジネスコラム

 先日夜遅く次女からラインが入った。
 「お父さん、今日最低な親父に出会った」
 「どうした?」
 「自宅を個人間売買したいと相談があったの。会ってみると父親から長男に家を売りたいとの話だった。詳しく聞いてみると父親が会社経営をしてるけど上手くいってないらしいの。要するに資金繰りが苦しくなってるから息子に家を買わせようと言うことだった」
 「息子は何て言ってた?」
 「終始父親に敬語で話してた。父親に事業内容を教えてと聞いてもお前に見せてもわからんて言うだけ。どうせいつか会社も家もお前のものになるねからええやろて言ってた。息子さんはサラリーマンをしてて父親の会社にはまだ入ってないからよくわかってない様子だった」
 「それでどうしたの?」
 「親族間の不動産売買で金融機関が息子さんにローンを組むのは難しいからと断ってきたよ」
 「そうか、大変だったね。息子さんにはいい機会になったかもね。父親の会社の経営状況が良くないことが分かっただけでも良かったということだ。将来会社を告げと云われたとき断るという選択肢があるということ、さらには相続の際、負の遺産があるなら相続放棄も視野に入れておく必要があるということだ」
 「自分の会社が傾いているって正直に認めて自分で会社を整理すればいいのに、息子を巻き込もうとするなんて最低な親父や」
 「親から子への事業承継が難しく少なくなってる大きな理由だね。後継者が親父の会社の財務内容が良くないことを分かってしまい会社を継ぎたくなくなる」
 「その点、お父さんは自分のケツは自分で拭いたから偉いね」
 「ハハ、お褒めにあずかり光栄至極です」
 
 コロナ禍で中小企業の経営悪化がますます進んでいる。会社を維持するために毎月借り入れが増えている。売り上げが回復していないにもかかわらず融資残高だけが増えていく。金融機関からは今以上の融資は難しいと云われ、取引先や友人知人、疎遠にしていた親戚まで借金の無心をする。あげくに子供たちにまで借金をさせようとする。
 
 難しいことだけどここで踏みとどまって考えて欲しい。そのままどんどん借金だけを積み重ねても業績を回復させることはとても難しい。生き残る会社と生き残れない会社がある。生き残れない会社にはひとつの典型がある。それは将来の展望を描けないにもかかわらず、現状を維持したいがためだけに借金を重ねている会社だ。
 
 生き残る会社の典型は手元資金を十分に確保し、将来展望を描き、業務改革、事業改革を行い、ビジネスモデルの変更に積極的に取り組んでいる会社だ。生き残れない会社の経営者が日々資金繰りに奔走している間に、生き残る会社の経営者は日々どうしたらさらに利益が上るかを考えている。
 
 会社経営をしていれば会社を潰すことだってある。誰もがいつまでも順風満帆であるはずがない。大事なことは会社を潰すにも潰し方が色々あるということだ。経営者がなりふり構わずただ資金繰りだけを考え借金を積み重ね、たくさんの大事な人たちに迷惑を掛け潰れてしまう。これが最も悲惨な結果を産むことになる潰れ方だ。
 
 会社を潰した経営者にも等しく人生は続く。再起し、また会社を起こす経営者もいる。どこかに勤め始める人もいる。再起しようとする人を助けてくれる友人知人、親戚の人がいる。そばには支えてくれる家族がいる。それらの大事な人たちに迷惑を掛け巻き込んでしまっていてはどうしようもない。
 
 自分が創業した会社であれば自分の責任において整理すればいい。親父から継いだ会社であれば自分の代で整理してやればいい。子供たちまで道ずれとしては親としての立つ瀬がない。再起するにも浮かぶ瀬がない。私の娘ではないけれど、自分のケツは自分で拭くことだ。