社内で抵抗勢力と対峙する
ビジネスコラム 企業の中で誰かが新しいことを始めようとすると必ず反対する者ができる。積極的に反対する者だけでなく消極的反対者もいる。新しいことを始めようとするのが経営者であっても同じこと。当然のように反対する者ができる。いわゆる抵抗勢力というのがどこからともなく現れる。経営者以外の者がなにか新しいことをやろうとするとなおさら大変な抵抗に遭うことになる。
先日、顧問先で思わぬ嬉しいことがあった。その顧問先では昨年来、新たな事業の柱となる新規事業を構築するという試みをやっている。現在、いくつかの案のなかから2案に絞って事業計画を策定中である。そのひとつは本年に入り事業部が新設され動き始めている。もう一つはまだ事業化するには今ひとつ何かが足らないということで思案中である。
どちらもプロジェクトチームをつくり取り組んでもらっている。チームリーダーは他社でいうなら係長クラスの若手社員だ。メンバーはみんな若手社員ばかりだ。私は月に一度それぞれのチームメンバーとセッションを行っている。プロジェクトの実現化に向けアドバイスをし軌道修正をしていくのが私の役割だ。
昨年来取り組んできたそのプロジェクトのひとつが今年から動き始めた。しかも新規事業部を立ち上げてのスタートとなった。コロナ禍にあり多くの企業が先行き不透明で苦しんでいる。事業の見直しに取り組むところは多くあるが新規事業を立ち上げることができる企業はそう多くはない。
そういう意味では喜ばしい話だ。ところが私には一抹の不安があった。新規事業部といえども事業部であるかぎりその責任者である事業部長にはベテラン社員、幹部が就くことになる。私はできれば年は若いがプロジェクトのチームリーダーを事業部長に就けて欲しいと願っていた。
私が危惧していたとおり事業部長には子会社の社長をしていた方が就いていた。若いチームリーダーは部長の補佐をする副部長になったようだ。実質的に事業部を運営、管理するのは副部長がやるということを聞き私は胸をなでおろした。かつて一度、私はその子会社の社長に会っている。
新規事業を立ち上げ推進していくにはそれまでの社内常識や固定観念といったものが障害となる。その子会社の社長は社内常識を大事にし固定観念に縛られている。彼が新規事業部長になれば折角のプロジェクトが頓挫してしまう。年功序列じゃなく年は若いが新規事業案を企画してきたチームリーダーに事業部長をやらせるべきだ。そう社長に進言してきた。
案の定、当初の会議で新事業部長となる子会社の社長が若手社員たちの意見をことごとく否定したようだ。「いやそれは違う」「でもそれは難しい」「そんな前例はない」「業界の常識とは違う」等々の言葉が連続して出てきたと云う。そのときプロジェクトのチームリーダーをしていた彼が言った。
「部長、今後私たちにそのような否定で始める言葉や、前例がない、業界の常識にない、などという話は絶対しないで欲しい。問題があるから難しいというのも止めてもらいたい。問題が多くあるのは承知している。その問題をひとつひとつ解決して前に進んで行こうと思っている。今後しばらくは事業部の運営を私に任せて欲しい。しばらく我々を見守っていて欲しい」
それを聞いた事業部長は黙って聞いていたようだ。そして「分かった」とだけ言ったという。その話を聞いて私は思わず目頭が熱くなった。そして本当に嬉しくなった。年の若い彼が年上の上司にそう言うには勇気が言っただろうと思う。彼ならきっと事業を立ち上げ利益を挙げていくだろう。そう確信させてくれた。
企業において抵抗勢力には誰もがなり得る。経営者でも抵抗勢力には手こずる。まして社員間ではなお更のこと。大事なことは抵抗勢力から逃げずに、正面から彼らと向き合うことだ。向き合うことで言い争うことになるかもしれない。しかし、そこから事態が動いていく。前に向けて事態を動かせればしめたものだ。