娘泥棒 (2011年10月26日)

敬天愛人箚記

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「お父さん。実はもう一つお話があります」 先日トーストマスターズクラブの例会の後、みんなでいつものように軽く一杯ひっかけ、ご機嫌よろしく帰宅した私を娘泥棒が待っていました。わたしの帰りを待っていた妻が、「お父さん、M君があなたの帰りを待ってたのよ。上に居てるから」そう言うのです。いつものように私に挨拶をして帰るつもりで待っていたのだと思い、2階へ上がっていきました。

「おう、まだおったのか」と言いながら、ご機嫌のわたしは、彼の仕事の話を聞いたり、文句を付けたりしておりました。さて、もう話は終わったと思い席を立ちかけたとき、 「お父さん、実は」が始まったのでした。Mは急に居ずまいを正し、 「お父さん。K子さんと結婚させてください。お願いします。今日は夜遅くで大変失礼かと思いましたが、お父さんにお許しを頂きたくてお待ちしておりました。よろしくお願いします」そう言いながら頭を下げるMの横で、私の可愛い次女がニコニコ、ニヤニヤと座っておりました。

不意を突かれた私は、心の準備ができておらず、腹立たしい思いでありました。私自身はMを気に入っており、娘さえよければと思っていましたから、反対する訳にはいかず、さりとて、嬉しそうに、はい喜んでとも言えず、「うーん、しゃーない、ーーー分かったわ」としか言えない自分になにやら腹が立ってきました。しかし、Mの横に座った次女の嬉しそうな顔を見ると怒ることもできず、あーいらいら。「もってけ!ドロボー!」

さて、我が家に最近週末になると、もう一人うろうろとする輩がいます。そいつは金髪で青い目をした変な外人です。それも実は、娘泥棒なんです。私の長女は最近までニューヨークにおりました。その間に知り合ったのでしょう。どこの馬の骨とも分からん、アメリカ人が我が家に出没しとるのです。聞くところによると、そいつはボストン大学を出て、医療コンサルの会社に勤めておったのに、我が長女に会いたさのあまり、何を血迷ったか、折角の会社を辞め、かのジェットプログラムとやらで、日本での英語教師に応募したようです。そして採用が決まると、嬉々として日本へやってきたのでした。そいつJは今、京都の公立高校で英語教師をしております。我が長女会いたさで、Jは週末になると夜行バスに乗ってやってくるのです。私は一度頭にきて、「こら、おまえ、ちゃんとせんと東京湾に沈めてまうぞ!」と長女に通訳してもらったところ、あやつはへたな日本語で「おとうさん、こわい、やくざみたい」とぬかしておりました。その後、私にメールで英語でしたが、長々と我が可愛い長女への想いをたらたらと送ってきておりました。「こらー、変な外人、お前もか、そのうち、もってけ!ドロボー!」

そんなこともあり、最近我が家は人の出入りが多くなり、ざわついています。ま、にぎやかでいいか。しかし、急にいっぺんに二人の娘泥棒の出現には、なんとも複雑な気分です。娘たちはどちらもニコニコ、妻はニヤニヤ。腹立ちまぎれに、私が二人のドロボーの悪口を言うと、娘たちに睨まれる始末です。娘の機嫌取りにあいつらにあいそする訳にもいかず、困ったものです。

「お父さんも同じでしょ」と妻がいいます。たしかに私もかつて娘泥棒でした。しかし俺は一人しか盗ってないのに、二人も盗られるのが気に入らんとほざいても相手にされません。あ、そういえば私の長男がいました。そのうち、アメリカ娘を一人盗むはずです。ま、これでちょうど帳尻が合うかと納得しよう。