息子へ (2011年6月16日)

敬天愛人箚記

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大学卒業おめでとう。あなたが中学を卒業し、アメリカへ渡って8年になりました。当初は慣れぬ環境の中、言葉は全く通じず、いろいろ困ったことや悩んだことがあったと聞いています。泣きながら母親に電話をしてきたこともあったと聞いています。そんなあなたが高校を卒業し、シアトル大学へ入学が決まったと聞いた時、本当に嬉しかった。とてもあなたを誇りに思いました。小さい時から独立心が強いあなたは、3歳のころ母親に「僕のことは、かまわんとって!」と言ったそうです。ウルトラマンやフィギュアがいっぱい入った袋を引きずって、そう言いながら友達のところへ行っていましたね。あなたの名前の「章」には、早くして独立するという意味があったのです。まさにその通りでした。

ハワイ島ヒロで過ごした高校3年間、とても楽しそうでしたね。ホームステイ先のパパ・ママに本当に可愛がってもらいましたね。学校の先生にも恵まれましたね。友達もたくさんいましたね。あなたがハワイへ行って半年ぐらいたったころ、あなたと電話で話した時「お父さん、僕を留学させてくれて、ありがとう。」とあなたが言いました。あなたを16歳から留学させて本当によかったと思いました。あなたの卒業式にハワイのパパ・ママと私たち夫婦4人で出ましたね。あなたがみんなに愛されているのを見て、私たち夫婦は感激しました。あなたのパーティーで、パパと私が泣きながらウィスキーをたくさん飲んで酔っ払っていましたね。ハワイの友人たちもたくさん来てくれましたね。

あれから4年、あなたは大学卒業です。卒業式には何としても出席したかったのに、行けず、残念です。昨年春、あなたには突然の話で申し訳なかったと思います。私が会社を倒産させたことを知ったあなたは、「お父さん、俺は大丈夫やから心配せんといて。大学はなんとかして卒業するから。お母さんのことだけ頼むよ。」って言ってくれましたね。それからたびたび電話してくれたね。あなたのやさしさに、お父さんは本当に救われました。

あなたが継ぐはずだった会社が無くなりました。今、思うとそれはそれで良かったのかもしれないと思っています。あなたにとって、負担であり、重荷だったかもしれません。そうなるべくしてなったのだと思います。あなたは自分で会社を興すからと言ってくれました。その方が良いのかもしれません。

私は、すべての財産を失くしました。それでも、あなたと二人の娘がいて、お母さんがずっとそばにいてくれます。たくさんの友人が訪ねてくれます。今は平穏に穏やかに暮らしています。みんなのおかげと感謝しています。

あなたがこれからどんな人生を送るのか、想像するだけで楽しくなります。どこでどんな仕事をして、どんな女性と出会い、どんな家庭を持つのか。あなたはお父さんが言うのもおかしいけれど、とても誠実で優しい男です。そして何事にも前向きで、こつこつ努力をすることも知っています。昨年年末、帰国した時あなたと二人で歩いていたら、うしろでなにやら音がして、振り向くと女の人が自転車で転んでいましたね。だいぶ離れていたにもかかわらず、あなたは走っていきましたね。女の人を助け起こし、自転車を起こし、笑顔で話しかけていましたね。

私はあなたが息子で本当に良かったと思っています。あなたといっしょに過ごした時間は短いけれど、離れている時間が多いけれど、あなたの存在はお父さんの中で日々大きくなりました。心からあなたを愛しています。

大学卒業おめでとう。   お父さん。